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或る日の川辺

或る日の川辺

Bloom のためのプロット
眼下には広大な川が横たわっている。濃い霧がかかっていて対岸が見えない。向こうからかすかに管弦の音が聞こえる。もっと向こうには摩天楼がそびえ立っているのが見える。
遠く彼岸に遊ぶ君の姿を見た。ゆったりと揺蕩う君の背中を見た。かつて君が此岸にいたとき、私は何度も何度も君を呼んだ。漸く川を渡り終えた君は、春の陽光に包まれて静かに旅立っていった。今度は私が川を渡る番だ。
ふいに、ほど近くで向こう側に思いを馳せる人を見た。少し前、足をすくわれてこちらに戻されたと言う。彼岸の君と時を同じくして渡るはずだったと言う。何度も雨に打たれながら、船を仕立てる人は言った。
川は幾度も分岐していた。遠くに近くに、無数の彼岸をもって我々の前に現れた。向こうからは冷たく強い風とともに、かすかに甘美な香を匂わせていた。それがどこからくるものなのかはわからない。
霧雨のなか、あちら側を目指してがむしゃらに渡り切るしかない。我々にはもう道は残されていなかった。

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