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川辺にて

川辺にて

池の間の階段を降りていくと、一番下は川に面していた。周りは濃い霧がかかって遠くが見渡せない。少し歩くと船着場があり、小さな船に笠をかぶった船頭らしき人が乗っていた。
船頭は私に気がつき、私に船に乗るよう促した。私はそれに応じた。

船頭は口元を薄い布で覆い、笠を目深にかぶっていたので顔がよく見えなかった。

彼は船をゆっくりと進めた。彼によると、行き止まりになっていたあの道の続きはこの川を渡った先にあるという。川には大きな橋がかかっていたが、それを渡った先には私が目指している場所への道がつながっていないという。この船だけがそこへ行く唯一の手段らしい。

途中、遠い川岸からこちらに手を振る小さな影があった。霧に阻まれてはっきりとした姿は見えなかったが、どうも見覚えのあるような背格好だった。私はその影に手を振り返した。

やがて船は対岸に着いた。船を降りて船頭に礼を言うと、船頭は口元の布を下ろし、笠を脱いで顔をあらわにした。船頭は若い男だった。
「もう二度と会うことはないだろうが、もしまた会ったら、よろしくな」と彼は言い、微笑んで汗を拭った。

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